2014年1月16日木曜日

ヴォルスの言葉 -大岡 信 編・訳ー

「反映集(ルフレ)」

カッシでにこと、石や魚
ルーペで見た岩
塩の海、そして空が
ぼくに人間の重要性を忘れさせ
こせついたぼくらの挙動に
背を向けさせ
港のさざ波の中に
永遠を示してみせた
あの繰り返すことなしに
繰り返している波の中に

ぼくの黄色い犬は 夜になるといきいきとする
うるさいほどにはしゃぎまわる
眠りながら考える
かれは知っている すべてが同じだと
あしたの夜と同じだと

むだなことだ
神を名づけたり
ものごとを完全に知ろうとしたりすることは
見るときは 見ているものを利用することに
夢中になったりするべきではない
あるものをあるがままに見るだけだ

統一へ、美へ、そして空へ
向かっている一本の道が見えているとき
ものの細部の重要性は失せる
でもそれらは いぜん魅惑的だ

ぼくがどこかへ到着するときぼくは眼に見えないくらい小さな
カバンを持っている
さてまた出発するときは いつでもトラックが必要だ

すべての愛はただひとつの愛に導く
ひとりひとりの愛の彼方に
無名のひとつの愛がある

いまだに成熟しきれない
白人種というやつが
ヨハン・セバスチャン・バッハのような賢人を生んだということは
これは奇蹟だ

個人的な祈りは祈りではない
ほんのひとことの祈りでも
宇宙を所有することができる
祈りを体操と混同するな
祈りはどんなものでもありうるし
どんなものにも祈ることはできる
それがほんとの祈りでありさえすれば

武器をもたない臆病者のほうが
武器を手にした臆病者より好ましい
武器をもつということ自体臆病なのだ

ぼくが夢見るすべてのことは
とても大きい とても
美しい未知の都市で起きる
広大な場末の町々 そして海
ぼくにはとてもスケッチできない

一瞬ごと
ひとつひとつのもののなか
永遠はそこにある

言葉はカメレオンだ
音楽は抽象的である権利をもつ
どんなものでも説明できない体験は夢に導く
音楽を説明するな
夢を説明するな
つかみ得ぬものすべての中に貫流している
すべてのものが韻を踏むのを知らねばならぬ

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