2011年10月8日土曜日

生きることは芸術に値するか

画家、長谷川利行の伝記本
「アウトローと呼ばれた画家」を読んだ。

「生きることは芸術に値するか」
この痛烈な言説。利行独特の逆説。
「自然は芸術を模倣する」に匹敵すると思う。

彼の背水の陣を敷いたかのような生き様。
絵を押し売りし、幾ばくのお金を得る。
木賃宿に泊まり、カフェやレビューを愛し、
絵が描けて、酒が呑めれば良しとする日常。

そんな彼を梅原龍之介や安井曾太郎は嫌ったとある。
当然だろう。
利行は児童画を画架に貼り付けて
「これがボクの手本だ」と言っていたらしい。

日本のフォーブ(野獣派)とも言われた利行の絵。
確かに原色をキャンバスや紙に叩き付けるように見える。
しかし彼の黒の鮮やかなこと。
画面を引き締めていること。
黒の扱いは紛れもなく巨匠の表現だ。
マネやマチスを彷彿とさせるが、いずれとも違っている。

しかし、利行の魅力は何とも言えない抒情にある。
生活、人生、絵画が一体となった彼しか描けない世界がある。
野良犬のようだと揶揄されても、
野良犬として人生を貫いた気品がある。

否、そんな生易しいものでは無かっただろう。
彼は晩年、手術や鎮痛剤を拒否して、
救済病院で孤独死している。
時代が彼をそうさせた部分もあるだろう。

利行になれないへっぽこ絵描きは、
彼の絵にたまらなく憧れる。
生き様は到底真似できないから、
なおのこと憧れる。

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