2014年6月6日金曜日

大きな女王と小さな王様

女王は緋色のドレス
朝食のコーヒーを飲んだ後は
ピアノに向かって、鍵盤を叩く

お気に入りはドビッシー、ラベル、リスト
「巡礼の年」より「ゴンドラを漕ぐ女」
バックハウスが彼女のお手本

王様は濃紺の衣装
大きな薔薇の庭に立つ
小ぶりの花瓶に
サーモンピンクの花
薔薇の棘が王様の指を刺す

曇りがちな6月の空
湿った雨の匂い
丘の上に立つ王の屋敷
麓の牧草と羊の群れ
王様は公爵夫人に想いを寄せる

休日の午後
女王は薔薇の絵を描く
ありったけの集中力で

公爵は女王に微笑む
女王は微笑みを返す
ダージリンの香りと薔薇の香り

昼食の後
女王と王様と公爵夫人と公爵
四人は丸いテーブルに着き
カードゲームを始める
女王が勝ち、王様は負ける
公爵夫人が勝ち、公爵は負ける

子どもたちは知っている
やがて自分も大人になり
退屈な女王、王様、公爵夫人、公爵
そんな存在になることを
そして楽しくもないカードゲームを始めることを

大人たちは忘れている
そんな大人になることを
恐れていた自分がいたことを
そんな大人にはならないと
誓ったあの日のことを

今日も雨は降りだした
晩餐会の夜に
子どもたちの夢は
流れて消えた

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