2011年6月14日火曜日

異邦人

 曇り空。
 記憶の中の街。100年前の海を想う。
 ラジオの音が漂う部屋。

 練馬区豊島園のアパート。随分と昔のことだ。
 ガラスの障子を見つめる。
 外は暗い。粗末なちゃぶ台。
 小さな白い冷蔵庫。
 
 ガラスコップにサッポロ黒ラベルの大瓶。
 肴には魚肉ソーセージ。
 湖池屋のポテトチップス。

 フォークソングの甘く寂しい調べ。 
 ぼんやりとビールの泡を眺める。
 外は雨が降り出している。
 
 一本目を飲み終えて、少しいい気分。
 2本目の栓を抜く。
 トクッ、トクッ、トクッと楽しげな音。
 濃い小麦色の液体。苦みが嬉しい。

 油絵の具とテレピンの匂い。
 重く湿った空気。壁にはムンクのマドンナ。
 模写したゴッホの晩年の自画像。
 ピカソの薔薇色の時代、サーカスの親子。
 彼らはみな黙りこくって、
 遙か遠くを眺めている。

 ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」が流れる。
 絵の中の人物も僕も同じ異邦人だ。

 2本目を飲み終えて、とてもいい気分。
 雨音さえもいい調子。
 ラジオしかない、四畳半の部屋。

 もう存在しない、記憶の中の世界。

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