曇り空。
記憶の中の街。100年前の海を想う。
ラジオの音が漂う部屋。
練馬区豊島園のアパート。随分と昔のことだ。
ガラスの障子を見つめる。
外は暗い。粗末なちゃぶ台。
小さな白い冷蔵庫。
ガラスコップにサッポロ黒ラベルの大瓶。
肴には魚肉ソーセージ。
湖池屋のポテトチップス。
フォークソングの甘く寂しい調べ。
ぼんやりとビールの泡を眺める。
外は雨が降り出している。
一本目を飲み終えて、少しいい気分。
2本目の栓を抜く。
トクッ、トクッ、トクッと楽しげな音。
濃い小麦色の液体。苦みが嬉しい。
油絵の具とテレピンの匂い。
重く湿った空気。壁にはムンクのマドンナ。
模写したゴッホの晩年の自画像。
ピカソの薔薇色の時代、サーカスの親子。
彼らはみな黙りこくって、
遙か遠くを眺めている。
ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」が流れる。
絵の中の人物も僕も同じ異邦人だ。
2本目を飲み終えて、とてもいい気分。
雨音さえもいい調子。
ラジオしかない、四畳半の部屋。
もう存在しない、記憶の中の世界。
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