詩人の吉岡実。
「四人の僧侶」には驚いた。
若い頃、乾氏から借りた詩集にあった。
彼のエッセイに「私の作詩法」がある。
曰く「メモは一切しない」
「机の上に紙と鉛筆を置き、
白紙の状態から始める」などなど。
そんなやり方でよく書けるものだと思った。
良いフレーズやイメージが浮かんだら、
普通は書き留めておきたくなると思う。
作家村上春樹へのインタビューの本、
「僕は夢見るために朝目覚めるのです」
「ねじまき鳥のクロニクル」について聞かれて
こう答えている。
「主人公は三十歳の男。台所でスパゲティを茹でている。
そこに電話が鳴る。それだけです。」
「物語はもう一つの世界だ」と村上は言う。
そしてその世界は確かに存在しているのだと。
それは幼児の頃に、空を飛べると信じて
真剣に空へ向かって跳躍した行為にも似ているだろうか。
超越を信じること。
宗教とは違う方法で。
多くの宗教が持つ弱点は現世利益に応えようとする点だろう。
あなたの不幸は前世の罪だ。
こうすれば(寄進や布施など)幸せになれると。
僕は自分が仏教徒といえるのかどうか分からない。
けれど、仏教の持つクールな感じには惹かれる。
怨憎会苦、愛別離苦など所謂「四苦八苦」の世界観である。
そこに煩悩から離れられない凡人の人生が見える。
決して成功や幸せを前提としていない。
寧ろ、それらは全てまやかしだと警告する。
芸術は、とりわけ優れた芸術は
紛れもなく「もう一つの世界」なのだ。
宗教よりも、より個人的な世界であり
自分の内面と芸術の世界を繋ぐための一つの部屋とも言える。
それは現実と戯れながら、現実とは違う世界だ。
夢とは違うもう一つの夢なのかもしれない。
そして僕はその夢を夢見ている。
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