2010年6月17日木曜日

黒い人

 もう少しで
 眠れそうなのに 
 心臓が
 ドクドク
 打ち始めると
 黒い人が現れる

 瞳はほとんど閉じられて
 頭の底は
 夢の扉を開けようとしている

 黒い人は
 廊下に立ち
 ふすまの蔭から
 こちらをうかがう


 黒い人は
 闇の世界に住む
 黒い人に
 光はとどかない
 黒い人に
 音はとどかない

 眠りに落ちるやいなや
 黒い人は
 私の上に襲いかかる
 私は
 心の中で
 思い切り叫ぼうとする

 黒い人は
 真っ黒な顔で
 虚無と一体となり 
 私は
 虚無に取り込まれまいと
 必死で
 必死で目を覚まそうとする

 黒い人は
 気配だけを残して 
 私の頭の中と
 目の前の廊下を
 しばらく行き来する

 眠りの神が
 大きなハンマーで
 頭の後をたたく

 瞳を閉じる
 ほんのわずかのすきまから
 黒い人が
 立っているのが見えた
 
 いつからか
 黒い人は 
 現れなくなった

 彼は
 私自身であったのだと
 今ではそう思う

 (制作年不明)

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