2010年3月5日金曜日

円盤が舞い下りた

 春の気候は三寒四温と言うが、それにしても激しい。
 一昨日は真冬の寒さだったのに、今日は初夏の趣だ。

 以前は、大寒とか立春くらしか知らなかった。
 今は雨水や啓蟄などの言葉を知っている。 
 今年は明日、3月6日土曜日が啓蟄だ。

 務め先のある新宿で、いつも下車している西武新宿駅、
 明治通りに面したビルが、解体工事をしている。
 間口は10mに満たない。
 両側に立つ雑居ビルとの距離は、わずか数十センチ。
 
 ドリルやショベルカーなどで、一日一日解体は進む。
 当然シートや幌で覆われているが、
 通りすがりに隙間から中を覗く。
 ビルの柱のコンクリートはギザギザに切断され、
 そこからは太い鉄骨が何本も突き出している。
 中は凄まじい力で破壊が繰り返された跡が窺える。
 ビルの前には複数の警備員が通行人を誘導し、
 作業員の4トントラックが、ビルの残骸を運び出す。

 しばらくして、
 地上の部分はあらかた解体が終了し、シートは外された。
 隣のビルの、空調のダクトやパイプが見える。
 もちろん、傷一つ見当たらない。

 プロの仕事だ。

 「伸ばすにはまず縮めなければならない」とは老荘の言葉。
 「作るにはまず壊さなければならない」そんな言葉が浮かぶ。

 K氏から送られてきた、たぶんイタリア人作家の短編、
 「円盤が舞い下りた」。
 教会の上に円盤が舞い下りる。
 
 宇宙人が十字架を指さして牧師に尋ねる。
 これは何か?何の役に立つのか?と。
 牧師は応える。
 「これは我々の原罪を背負って十字架で亡くなった、
 神の子イエスの象徴だ」と。
 
 宇宙人は再び聞く。
 「地球人は原罪を犯したのか?」「あなたたちは?」
 「善と悪の木の実を食べたりしない。それは法律だから」と
 宇宙人は答える。
 
 僕は吹き出してしまった。
 キリスト教徒ではないが、罪を知らない宇宙人よりも、
 善と悪の狭間を生きる人間が愛おしいと言う牧師に共感した。

 画家としても、一人の人間としても、
 僕は逡巡と行動と後悔との間を行ったり来たりしている。
 
 何かを壊しても、何も創り出せないかも知れない。
 それでも壊すこと創ること間を、
 日々行ったり来たりしている。  

0 件のコメント:

コメントを投稿