10cm近く積もっていた雪は、
朝陽を浴びて輝いていた。
陽が高さを増し、気温が上昇するにつれ、
泡のように消えてしまった。
まさに淡雪だと思った。
珍しく父と出かけた。
法事の引き物を探しに三条市燕に向かった。
燕は古くから洋食器の町として知られ、
昔は社会科の教科書に載るほどだった。
ところが安価な輸入洋食器に押されて、
その衰退が懸念させていた。
しかし最近になって、大ヒット商品の
初期I-podの鏡のようなボディが、
燕の職人の手仕事の磨き技であることが喧伝され、
再び、全国的な注目を浴びるようになった。
長岡ICから関越高速に入る。
高速道路を運転するのは何年振りだろうか。
思い出した。
友人の加藤さんと二人で、
青森まで東北自動車道を走って以来だから4年だな。
陽を浴びた雪山を遠目にしながらのドライブほど、
楽しいものはない。
さほど混んでいなければなおさらだ。
目当ての鏡のように磨き込まれた小振りのビアカップを
手に入れ、燕を後にした時は、雨が降り出しそうだった。
明くる日、長岡市のホテルオークラで開かれる
演芸ショーを見に行く父を送ろうとしたら、
玄関に二人の女性がいた。近所の人だろう。
二人とも60代半ばくらい。81歳の父よりだいぶ若い。
「お願いします」と言われて何のことやら分からない。
どうやら、同じ演芸ショーに行くらしい。
その日の夕暮れ、茶の間で父と二人話した。
「年を取ると、デートはやっぱゼン(銭)がねえとダメらな」。
父が言う。件の近所の女性は父が誘ったのだと分かった。
「恋をする気持ちだけは持ってねーとな」。父がほざいている。
「恋する気持ちを持つだけで、若くいられるがらや」。
さすがにこの人は自分の父だと、改めて思った。
その日も夕方からの雨が降り、
夜には雪に変わっていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿