2010年4月5日月曜日

なごり雪

 10cm近く積もっていた雪は、
 朝陽を浴びて輝いていた。
 陽が高さを増し、気温が上昇するにつれ、
 泡のように消えてしまった。
 まさに淡雪だと思った。

 珍しく父と出かけた。
 法事の引き物を探しに三条市燕に向かった。
 
 燕は古くから洋食器の町として知られ、
 昔は社会科の教科書に載るほどだった。
 ところが安価な輸入洋食器に押されて、
 その衰退が懸念させていた。

 しかし最近になって、大ヒット商品の
 初期I-podの鏡のようなボディが、
 燕の職人の手仕事の磨き技であることが喧伝され、
 再び、全国的な注目を浴びるようになった。

 長岡ICから関越高速に入る。
 高速道路を運転するのは何年振りだろうか。
 思い出した。
 友人の加藤さんと二人で、
 青森まで東北自動車道を走って以来だから4年だな。

 陽を浴びた雪山を遠目にしながらのドライブほど、
 楽しいものはない。
 さほど混んでいなければなおさらだ。
 
 目当ての鏡のように磨き込まれた小振りのビアカップを
 手に入れ、燕を後にした時は、雨が降り出しそうだった。

 明くる日、長岡市のホテルオークラで開かれる
 演芸ショーを見に行く父を送ろうとしたら、
 玄関に二人の女性がいた。近所の人だろう。
 二人とも60代半ばくらい。81歳の父よりだいぶ若い。

 「お願いします」と言われて何のことやら分からない。
 どうやら、同じ演芸ショーに行くらしい。
 
 その日の夕暮れ、茶の間で父と二人話した。
 「年を取ると、デートはやっぱゼン(銭)がねえとダメらな」。
 父が言う。件の近所の女性は父が誘ったのだと分かった。
 
 「恋をする気持ちだけは持ってねーとな」。父がほざいている。
 「恋する気持ちを持つだけで、若くいられるがらや」。
 さすがにこの人は自分の父だと、改めて思った。

 その日も夕方からの雨が降り、
 夜には雪に変わっていた。 
 

 

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