2010年5月23日日曜日

ガープの世界

 たぶん雑誌ぴあの映画評を読んだのだと思う。
 今はなくなった名画座三鷹オスカーで、
 「ガープの世界」を観た。
 20年以上前のことだ。

 ビートルズの曲When I'm Sixtyfourが
 オープニングのガープ誕生の場面で流れていた。
 
 原作者はジョン・アーヴィング。
 やはり彼の原作の「ホテルニューハンプシャー」。
 こちらも映画化されていて、名画座で観た。

 なぜか原作の小説は読んだことがなかったが、
 何年か前に「未亡人の一年」と言うタイトルに惹かれ、
 初めてアーヴィングを読んだ。

 面白かった。
 少年だった主人公が人妻と関係する場面から始まり、
 人妻が失踪し未亡人になり、老人になっても
 彼は彼女を思い続ける。
 そこに画家である夫と、その娘の物語が加わる。

 全体としてはお伽噺なのだが、
 性や生理的な現象を描写する彼の筆裁きは、
 生々しいが同時にドライだ。
 現象の記述を簡潔に、努めて客観的にしているからだろう。
 自分の文に入れ込んでいる感じが少ない。

 そして一人一人の人物造形が見事である。
 それぞれの人物の性格や行動が、人物と一体化している。

 そして人間はと言うものは「欲望の虜」なのだと知らされる。
 それぞれが思惑や欲望、偏見を持った存在だと知らされる。
 主人公のガープとて例外ではない。

 それは同時に、
 我々一人一人が不完全な存在で、欲望の虜だと言うことだ。

 「自分は常識がある」と言う人は、
 控えめに見ても、非常識な人が多い。
 「私は人のために働いている」そう主張する人ほど、
 自己利益や思い通りにしたい欲求が強いと感じる。
 「道徳」を声高かに叫ぶ人ほど道徳心が弱いと思う。
 道徳の本質は人に規律を求めることではなく、
 誰よりも自分自身を律することだからだ。

 心理学的に言えば「補償」だろうか。
 自分が無意識に弱点だと思っていることを
 何とか隠そうと努める。

 ガープの世界を読み終えて、
 そんな思いがなお強くなった。

 「どうしようもないわたしが歩いてゐる」山頭火

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