2010年7月26日月曜日

腐乱する生

 新宿の夏が憂鬱なのは、
 激しい暑さと腐乱の悪臭。

 朝8時前には西武新宿駅から
 新宿御苑の直ぐ隣にある職場へと向かう。
 
 好んで裏通りを通るので、
 勢い燃えるゴミ袋の列に出くわす。
 飲食店が多いからだ。
 ゴミ回収車の脇をすり抜ける。
 鼻腔を刺激する強烈な匂い。
 思わず息を止める。

 それでも裏通りをめったに変更しない。
 オレは「裏通りの男」(Back Street Boy)だからだ。

 3年前に半年間で二度職質を受けた。
 一度目は仕事帰りの午後6時近く。
 西武新宿駅の直ぐ近くだった。
 連日のように職質している警官を眺めたが、
 まさか自分のところへ来るとは思わなかった。
 二人組の警官に「ちょっといいですか?」と
 声を掛けられ、身体検査をされた。
 「新宿には何をしに来られましたか?」。
 「何って、仕事ですよ」。
 「ナイフは持ってませんか?」。
 「持ってない。何かあったの?」。
 「数日前に通報がありましてね・・・」。
 「特徴が似ているのかな」。
 「いいえ。ご協力ありがとうございました」。

 半年後、朝の10時前だった。
 西武新宿駅前に停車しているパトカーを見つけた。
 僕が歩道を渡ると、パトカーは発車した。
 30m先の横断歩道を渡る前にパトカーが止まり、
 素早く一人の警官が僕の行くてを塞いでこう言った。
 「ちょっといいですか?」。

 あっと言う間に続けて降りた二人の警官が加わり、
 都合3人に警官にがっちりと囲まれた。
 今度の職質と身体検査は入念だった。
 鞄の隅々まで、ポケットの中身まで調べられた。

 「半年前にも職務質問されたのですが、
 何か理由はあるのですか?」。
 警察官の答えは曖昧だった。

 一度目の職質の一ヶ月後、
 秋葉原で痛ましい事件が起こった。
 
 新宿の街は、僕には人が多すぎる。
 僕には街が大きすぎる。

 新宿に転勤して三度目の夏を迎えた。
 腐乱する臭いに慣れることはない。
 けれど最近になって、はたと考えた。
 腐乱には死のイメージがあるが、
 腐乱そのものは生を助長してきたのではないか。
 腐乱によって、生命の営みが育まれたのではないか。

 私自身が生と腐乱の中間にあるのではないか。
 死と腐乱の中間かもしれない。
 
 生も死も腐乱も、僕自身の幻想の中にあるにせよ、
 そのような幻想の夏の中に僕は今日もいる。

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