左手の親指がポキッと折れて床に落ちた。
母親が誤って折ってしまったのだ。
小学校へ上がる前の冬のことだ。
痛みは全くなかったが、恐ろしくて泣き叫んだ。
母と父は北米大陸の先住民族のような格好で
落ちた親指の周りをぐるぐると踊り祈っていた。
死んだ筈の祖母は心配そうな面持ちで
親指を眺めているだけだった。
早くつけないと元には戻らない。
そう分かっていても幼い僕にはなすすべもない。
ただ「左手だったのは少しだけ幸運だった」と
泣き叫びながら考えていた。
指先の欠けた親指を見ると、中は空洞だった
何故か骨も肉もなく、空洞だった。
中が空洞だという事実もまた恐ろしかった。
しばらくすると、落ちた親指の欠片から
小さな小さな天使が出てきた。
一人、二人、三人・・・・。全部で7人だった。
1番目の天使が驚く僕にこう言った。
「願い事を叶えてあげる」。
「指を元に戻して」。
やっとのことでそう言った。
6人の天使が指を運び、(彼らは羽で空を舞った)
1番目の天使がお呪いを唱えた。
僕の指は元通りになった。
ほっとして見渡すと辺りには天使の姿は無かった。
父も母も亡くなった祖母の姿も、もはや無かった。
(夢物語シリーズ・第一話)
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