2010年2月4日木曜日

よく遊び、よく学べ

 二月は逃げる。
 油断していると、直ぐに過ぎ去る。
 
 「人生は短く、芸術は長し」。
 古代ギリシャの言葉だが、
 元は「技術は長し」だったらしい。

 江戸の人々は良く遊んだ。
 遊びの良いところは、
 「何かのため」ではないところだろう。

 江戸初期の画家、久隅守景の「夕顔棚納涼図」。
 ふんどし姿の親父と腰巻き姿の女房と傍らの息子。
 夏の夕暮れに、夕顔棚の下で茣蓙を敷いて涼んでいる。
 空には満月。

 以前「美の巨人」でも紹介されていた、国宝の水墨画である。
 月を愛で、夕顔を愛で、夏の夕暮れの風を愛でる。
 ささやかな会話を楽しむ。
 話なんかしなくてもいいかも知れない。

 巨匠スタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」。
 雪に閉ざされた山の中の高級ホテル。
 冬の間は閉鎖されている、そのホテルに管理人一家が過ごす。

 小説家を志す管理人の男性は、次第に心を病んでゆく。
 それでも彼は広いロビーの真ん中で、一心に小説を書き続ける。
 ある日妻が書きかけの原稿を目にして、恐怖におののく。

 ALL WORKS NO PLAY MAKES JACK A DULL BOY.
「仕事(勉強)ばかりで遊ばない、ジャックはダメな少年になる」
 山のように積まれた原稿には、すべて同じ文章が書かれていた。
 
 英文は英語のことわざである。
 日本語では「よく遊び、よく学べ」となるが、
 ちょっとニュアンスが異なる。

 老齢になって外国語や、新しい学問を学ぶ人がいる。
 人生の晩年に差し掛かって新しい試みをする人を、
 揶揄する人も居る。「何の役にも立たない」と。

 勉強と違い、学問は遊びである。
 そこには「知る楽しみ」があるだけで、
 役に立つ、立たないは意味がない。

 尊敬する先輩に、先日ばったり会った。
 先輩は早々と仕事を退職し、大学の市民講座を聴講している。
 「よしいさん、マルクスの経済学は
 アリストテレスから来ているのですよ」。
 いきなりの高水準な話に、ついてゆくこともままならない。

 だが先輩を見ていると、「学ぶ人は遊び、遊ぶ人は学ぶ」
 と言う考えが頭に浮かぶ。
 それは対価と報酬を要求する労働や勉強とは真逆である。

 僕は「よく遊び、よく遊ぶ」。


 

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