南方熊楠は若い頃、独り山野に入った。
粘菌や植物を採取するためである。
その際、しばしば幽霊を見たと書いている。
夜とは限らず、昼にも見ることが出来たらしい。
熊楠曰く、「幽霊は垂直に現れる」と。
熊楠は近代日本に生まれた希有な天才であるが、
相当なホラ吹きでもあったらしい。
僕は幽霊や、精霊などの実在をどちらかと言えば
疑問に思っている。
それでも熊楠のこの話をホラ話とは感じない。
ユングもしばしば霊的な体験をしている。
この二人の話を読んでいると、
まあそんなことがあってもいいかと思えてくる。
よく考えてみれば、幽霊より恐ろしいのは
生きている人間だろう。
人間に酷い目に遭わされた経験は誰しもある。
幽霊に酷い目に遭わされた話は、
物語や映画の中でしかない。
ルネッサンスの理念は円で表されると聞いた。
円は完全無欠を表すと言う。
ダヴィンチも円の中に人間の理想を描いていた。
ところがバロックでは、二つの円を結んだ楕円が
その特徴を表すという。
二つの円は二つの中心を表す。つまり二つの真理である。
楕円の動きがバロックのダイナミズムを生んでいる。
此岸と彼岸。二つの世界を持つことで
世界は多様性を増すのだろうか。
芸術も現実の世界に対抗する
もうひとつの世界をとして存在する。
それは確かに虚構であって虚構でない。
「あらゆるものは移りゆき
移りゆくものはしばしば神々しい」
エルネスト・ルナン(神学者)
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