2010年1月28日木曜日

森のバロック

 南方熊楠は若い頃、独り山野に入った。
 粘菌や植物を採取するためである。
 その際、しばしば幽霊を見たと書いている。

 夜とは限らず、昼にも見ることが出来たらしい。
 熊楠曰く、「幽霊は垂直に現れる」と。
 
 熊楠は近代日本に生まれた希有な天才であるが、
 相当なホラ吹きでもあったらしい。
 僕は幽霊や、精霊などの実在をどちらかと言えば
 疑問に思っている。
 それでも熊楠のこの話をホラ話とは感じない。
 
 ユングもしばしば霊的な体験をしている。 
 この二人の話を読んでいると、
 まあそんなことがあってもいいかと思えてくる。

 よく考えてみれば、幽霊より恐ろしいのは
 生きている人間だろう。
 人間に酷い目に遭わされた経験は誰しもある。
 幽霊に酷い目に遭わされた話は、
 物語や映画の中でしかない。

 ルネッサンスの理念は円で表されると聞いた。
 円は完全無欠を表すと言う。
 ダヴィンチも円の中に人間の理想を描いていた。

 ところがバロックでは、二つの円を結んだ楕円が
 その特徴を表すという。
 二つの円は二つの中心を表す。つまり二つの真理である。
 楕円の動きがバロックのダイナミズムを生んでいる。

 此岸と彼岸。二つの世界を持つことで
 世界は多様性を増すのだろうか。
 
 芸術も現実の世界に対抗する
 もうひとつの世界をとして存在する。
 それは確かに虚構であって虚構でない。

 「あらゆるものは移りゆき
  移りゆくものはしばしば神々しい」
  エルネスト・ルナン(神学者)
  

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