2009年10月15日木曜日

円環の廃墟

 軍艦島へ行ってみたい。
 近代日本の繁栄とその崩壊が、端的に現れているからだ。

 仕事で毎日のように新宿に通っているが、高層ビル群が廃墟になっているところを夢想する。
 2006年の個展「レクイエム・怪獣と巨大ロボットシリーズ」では、人間のいない世界で
 人間の創造物である怪獣と巨大ロボットが、人間のために「レクイエム(鎮魂歌)」を唄ってる
 そんな世界を表現した。

 廃墟ブームは以前から密かにあったが、映画「千と千尋の神隠し」の冒頭部分、
 廃墟になったテーマパークの描写によって火がついたように思う。

 ラテンアメリカ文学の巨匠ボルヘスの作品に「円環の廃墟」がある。
 ボルヘスを読むようになったのは、古い友人であるI氏が「読んでみてください」と
 貸してくれたからだ。
 
 こんな短編があった。
 主人公は周りに存在する天使達が、実は実体のない存在であることに気づく。
 しかし最後に彼自身がその天使達と同じ実体のない存在だと気づくのである。

 フィリップ・ディック原作の映画「ブレードランナー」でも
 主人公が実は人間ではなく、人造人間ではないのかと思わせる。
 人造人間はねつ造された過去を持つ。
 
 考えてみれば、過去は物語のようなものだとも言える。
 僕たちは、過去を振り返る度に過去の物語を新たに創り出しているのだ。
 しかし、自分の過去に何一つ確信が持てなくなったらそれは怖いことだろう。

 「去年マリエンバードで」と言う映画では、主人公の女性が見知らぬ男性に
 「去年マリエンバードで会いましたね?」と尋ねられ、最初は否定する。
 しかし何度か同じ質問をされている内に確信が持てなくなってしまう。

 I氏からのメールを読んでそんなことを思い出した。
 

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